事業承継
開業医にとって絶対に避けては通れない大きな問題があります。それが事業承継問題です。
クリニックの事業承継では、多額のお金が絡んでくるケースが多く、誰に、いつ承継するのか慎重に答えを出す必要があります。また、事前に対策が必要になるケースも多々ありますので、自医院の将来設計・事業承継については今から少しずつ考えていく必要があります。
医院の事業承継の種類
事業を承継する場合、大きく別けて2つの選択肢があります。1つ目は身内に事業を承継するケース(親族への事業承継)、2つ目は、第三者に事業を承継(売却・譲渡)するケース(第三者への事業承継)です。
個人診療所 後継者・親族に事業承継する場合
個人で医院を開業されている方が事業を承継される場合、事業主としての立場を交代することになります。
1. 手続き
旧院長の手続き
保健所へ | ①診療所廃止届・・・・廃止後10日以内 ②診療用エックス線装置廃止届・・・廃止後10日以内 ③医師免許の籍登録抹消申請書・・・死亡後30日以内 ④開設者死亡届・・・死亡後10日以内 ⑤麻薬施用者業務廃止届・・・死亡後15日以内 ⑥麻薬所有届・・・死亡後15日以内 |
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厚生局へ | ①保険医療機関廃止届 |
税務署へ | ①個人事業の開廃業等届出書・・・廃止後1ヶ月以内 ②事業廃止届出書(消費税) ③給与支払事務所棟の廃止届出書・・・廃止後1ヶ月以内 |
新院長の手続き
保健所へ | ①診療所開設届・・・開設後10日以内 ②診療用エックス線装置備付届・・・開設後10日以内 ③麻薬施用(管理)者免許申請 |
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厚生局 | ①保険医療機関指定申請書 ②保険医療機関遡及願 |
税務署へ | ①個人事業の開廃業等届出書・・・開業後1ヶ月以内 ②青色申告承認申請書・・・開業後2か月 ③青色専従者給与に関する届出書・・・開業後1ヶ月以内 ④給与支払事務所等の開設届出書・・・開業後1ヶ月以内 ⑤源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 |
2. 承継方法
個人で医院を開業されている方の場合、医院で所有していたものは、その方個人の所有物になります。
従って、医院の土地、建物、医療器械など、事業承継にあたっては、それらの所有権をどのように移していくかがポイントになります。
①売却(譲渡)
旧院長から新院長へ、医院の財産を売買によって移動するケースです。土地・建物・医療器械の現在の価額を算出し、その金額を基礎として当事者間で売買します。親族での売買であったとしても、後々税務署とのトラブルにならないよう売買契約書は作成しておきましょう。
税務ポイント
売買時に所得(儲け)が出た場合には、旧院長の譲渡所得として課税(所得税)されることになり確定申告が必要です。
②生前贈与
旧院長から新院長へ、医院の財産を贈与するケースです。売買のように金銭面でのやり取りは生じませんが、贈与する財産によっては財産評価が高額なものを贈与すると、贈与された新院長に多額の贈与税が発生することになります。今後の相続における相続税とトータルにシミュレーションすることで旧院長、新院長の双方が税負担の少ない形で承継していくことが望ましい事業承継といえます。
税務ポイント
贈与された方に贈与税が課税され、確定申告が必要です。ただし、年間110万円までの評価額の財産の贈与であれば、贈与税はかかりません。
③死亡後相続
1. 生前に院長の立場を交代するケース
旧院長が健在のときは医院の財産を借りて医院経営を行い、旧院長死亡後に相続財産として新院長へシフトいくケースです。土地・建物といった不動産はその評価額が大きい為、売買や贈与では現実的に新院長へ所有権を移していくことは難しいのが現状です。この場合、旧院長健在時には、医院の敷地や建物を新院長が借りて診療を続け、旧院長が亡くなったときにこれらの財産を相続していきます。
税務ポイント
旧院長健在時に、診療所の敷地をどのように貸借しているかによって、敷地の相続税評価額は大きく違ってきます。土地の評価額の減額についても、最大80%から減額の適用なしのケースまでさまざまで、その貸借方法については、慎重に検討していく必要があります。
2. 死亡後に院長の立場を承継するケース
生前は旧院長のもとで勤務医として診療を行い、旧院長死亡により院長を交代し、旧院長の相続財産を相続していくケースです。
税務ポイント
相続税の計算上、土地の評価額を最大限に減額できるケースです。
医療法人 後継者・親族に事業承継する場合
医療法人の事業承継では後継者は、医療法人に対する出資持分を譲渡(売却)・贈与・相続によって承継することになります。医療法人は普通法人と違い、毎年の利益を出資者に配当することができません。そのため医療法人が毎年計上する利益は、法人内部に蓄積されていきます。その結果、出資持分の相続税評価額は非常に高額になり、相続の際に問題になるケースが多々あります。医院を将来どうしたいのかということを予め考え、事前に対策を練ることが非常に重要となります。
※平成19年4月1日以降設立の「基金拠出型医療法人」については、出資持分がないので、上記の対象外となります。
1.手続き
保健所へ | ①医療法人役員(理事長)変更届 ②理事長を変更した理事会の議事録の写し ③医療法人の登記事項の届出 ④変更後の登記簿謄本 |
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法務局へ | ①理事長の変更登記 |
税務署へ | ①異動届出書(代表者の変更) |
2.承継方法
医療法人の理事会により理事長として選任されることで、医療法人の代表者となることができます。理事長の変更にあたっては、法務局への理事長の変更登記が必要です。理事長の変更登記が完了することで、対外的にも医療法人の代表者が変更したことになります。医療法人で開業されている方の場合、医院の財産は医療法人に帰属します。その医療法人に出資した持分を有することにより、医院の財産を医療法人を通じて間接的に所有していることになります。事業承継にあたっては、この医療法人の出資持分をどのように移していくかがポイントになります。
①売却(譲渡)
医療法人の出資持分の評価額により、売買によって移動するケースです。
税務ポイント
医療法人の出資持分の評価額は、医療法第54条による内部利益の留保(剰余金の配当禁止)により、毎期上がっていきます。売却時に譲渡益が出ることが通常であるため、売った側の譲渡所得として課税(所得税)されることになり、確定申告が必要です。
②生前贈与
出資持分を贈与して移動するケースです。
税務ポイント
医療法人の出資持分の評価額は毎期上がっていく為、贈与時期、贈与持分によっては、贈与された側に多額の贈与額が発生します。(確定申告が必要です。)
出資持分の評価額が積み上がる前に、医療法人設立時から、将来を見越した計画的な贈与が必要です。
③相続
死亡後、相続により医療法人の持分を承継するケースです。
税務ポイント
医療法人の出資持分の評価額は毎期上がっていく為、生前に相続対策をしていない場合、相続時には残された相続人に多額に相続税が課税されることになります。生前からの対策が必要です。
個人診療所・医療法人 第三者に事業承継する場合
親族への承継が困難になった場合、第三者に売買によって承継していくケースです。第三者にとって診療の基盤が確保されている為、売買の内容について合意を得ることで、診療基盤を承継していくことができます。ポイントは双方合意を得るに至る売買金額についてですが、現時点での資産・負債の評価額をベースに、医院の患者集客力、立地条件等を勘案し、その金額を決めていきます。