相続手続き

遺言書がないとどのようなトラブルが起こり得るのか?トラブル例と遺言書作成時の注意点について解説

この記事の監修

伊藤 桜子先生

伊藤会計事務所

伊藤 桜子
九州北部税理士会 福岡支部 登録番号 第109896号
福岡県行政書士会 福岡中央支部 会員番号 13020号)

1990年 神戸大学法学部卒業。2008年 福岡市中央区薬院にて伊藤会計事務所開業。
福岡を中心に、相続税申告・生前対策相談・事業承継など累計700件以上を手掛けてきた。
相続対策や相続税法改正をテーマとしたセミナーにも多数登壇。

「うちは家族の仲が良いから大丈夫」「自分の財産は家と預金くらいだから揉めるはずがない」このように考えている場合でも、相続トラブルは決して他人事ではありません。

今回のコラムでは、遺言書がないときの遺産の分け方やどのようなトラブルが起こり得るのか、さらに遺言書を作成するときの注意点を解説していきます。

このコラムを読み終えたときに「自分もそろそろ準備を始めよう」と思っていただけるよう、遺言書作成の第一歩を後押しできれば幸いです。

遺言書がない場合の遺産の分け方とは?

遺言書がない場合に相続する方法は次の2つです。

  • 遺産分割協議で分ける
  • 法定相続分で分ける

遺産分割協議で分ける

法定相続分は、相続人の間で遺産分割の合意ができなかったときの遺産の持分であり、必ずこの法定相続分で遺産をわけなければならないというわけではありません。

実際に誰がどの財産を相続するのかを決めるためには、法定相続人全員で話し合い、全員の合意を得る必要があります。

この話し合いを「遺産分割協議」と呼びます。

この遺産分割協議こそが、「争続」への入り口となり得るのです。

法定相続分で分ける

遺言書がない場合、誰がどれくらいの割合で財産を相続するかは民法で定められており、これを「法定相続分」といいます。

遺言書がない場合、かつ、遺産分割協議が調わない場合には、法定相続分で遺産を分けることもできます。

法定相続人及び法定相続分は次のように定められています。

配偶者がいる場合 配偶者がいない場合
法定相続人(代襲相続人) 法定相続分 法定相続人(代襲相続人) 法定相続分
配偶者のみ
第一順位 配偶者 1/2 第一順位 子(孫)
子(孫) 1/2
第二順位 配偶者 2/3 第二順位 父母
(祖父母)
父母
(祖父母)
1/3
第三順位 配偶者 3/4 第三順位 兄弟姉妹
(甥姪)
兄弟姉妹
(甥姪)
1/4

法定相続人には優先順位があり、上位の順位の人がいる場合、下位の順位の人は相続人になれません。

例えば、子がいる場合には父母や兄弟姉妹は法定相続人には該当しないということになります。

遺産分割協議で起こりえるトラブル

では、具体的にどのようなことが原因で遺産分割協議は難航するのでしょうか。

財産の額にかかわらず、誰にでも起こりうる事例を5つご紹介します。

財産のほとんどが不動産

財産の中に不動産があることはよくあるケースですが、財産内容のほとんどが不動産である場合、その分割方法や分割割合で揉める可能性があります。

例として「遺産内容が実家の土地建物だけ」「土地は複数所有しているが預貯金が少ない」といったケースが該当します。

不動産は分けにくい財産であるため、誰がどの不動産を取得するのか、代償分割※に対する意見が合わない、不動産売却に対する意見が合わないなどの様々な理由により、遺産分割協議がなかなか成立せず、話し合いが長期化するといったことが想定されます。

※代償分割とは、特定の相続人が不動産などの分けにくい財産を取得する代わりに、他の相続人へ代償金を支払うという遺産分割の方法です。

被相続人の介護等をしてきた相続人や親族がいる

ご両親の介護の負担が特定の相続人に偏ってしまっていた場合にも遺産分割で揉める要因となります。

ご両親の介護など、生前に尽くしていた特定の相続人は「寄与分」として他の相続人よりも多く遺産を分けてほしいと主張するかもしれません。

一方、他の相続人の中にはこの寄与分を承諾せず、意見が対立し、なかなか遺産分割協議が成立しないといったことが想定されます。

多額の生前贈与を受けた相続人がいる

被相続人から多額な生前贈与を受けていた相続人がいる場合、遺産の分割割合や遺留分の請求でトラブルとなることがあります。

特定の相続人だけに多額の生前贈与が行われていると、他の相続人は不平等に感じられるでしょう。

そういった場合、他の相続人は生前の贈与分を考慮して財産を分けるために「特別受益の持ち戻し」を求めることができます。

特別受益とは、被相続人から受け取った生前贈与などの利益のことで、通常の扶養の範囲を超える生活費援助やマイホーム購入資金の援助、不動産の贈与などが該当します。

これらの特別受益を受けた相続人が、遺産分割協議の際に相続財産に持ち戻すことを認めれば話し合いはスムーズに進みますが、そうでない場合は話し合いが長期化することになるでしょう。

法定相続人以外には財産を受け取る権利がない

長年連れ添い、身の回りの世話をしてくれた事実上のパートナーや、実の子以上に親身に介護をしてくれた「子の配偶者」や「孫」などは、法定相続人には該当しないため、遺言書がない場合には遺産を受け取ることができません。

最もお世話になった人には一銭も残らず、生前関わりのなかった法定相続人へ全ての財産が渡ってしまうなど、ご自身の意志とは全く異なる結果となってしまう可能性があります。

相続関係が複雑

相続関係が複雑なケースとは、被相続人に離婚歴がある場合などに、前の配偶者との間に子がいる場合や、代襲相続などによりあまり交流のない親族が法定相続人に該当する場合などです。

遺言書がない場合には、法定相続人全員との遺産分割協議が必要となるため、このように交流のない親族がいる場合には話し合いが難航することが予想されます。

【前妻との間に子供がいる場合:その子供も法定相続人に該当】

 

【代襲相続人がいる場合:甥姪まで法定相続人に該当】

 

遺言書があれば遺産分割協議は不要

遺言書があれば、原則としてその内容が優先されるため、遺産分割協議を行う必要がなくなります。

「妻に全ての財産を相続させる」「自宅不動産は同居して介護をしてくれた長男に相続させる」「お世話になった子の配偶者に、預貯金の一部を遺贈する」など、ご自身の意志を明確に記しておくことで、無用な争いを回避することにつながります。

ただし、遺言書によって遺産の分け方を決める場合には遺留分や相続税などに注意する必要があります。

作成を検討されている方は司法書士や税理士などの専門家へ、一度ご相談されることをおすすめします。

 

遺言書の種類と作成するときの注意点

遺言書の種類には3種類あり、それぞれで作成するときの注意点が異なります。

「遺言書を書いてみよう」と思い立ったときに、どのような点に注意をして遺言書を作成すると良いのか、遺言書の種類と併せて解説します。

自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、その名の通り遺言書内容のすべてを自身で作成する遺言書のことで、基本的には費用もかからないため、最も手軽な方法となっています。

しかし、民法で定められている記載しなければならない事項が一つでも欠けると、遺言書とは認められず無効となってしまう可能性があるため注意が必要です。

また、ご自身がお亡くなりになった後に遺言書が発見されなかったり、発見した相続人に改ざんされたりする危険性もあります。

なお、法務局での遺言書保管制度を利用することで、紛失や改ざんのリスクを防ぎ、遺言書の存在を相続人に知らせることは可能ですが、内容の精査までは行ってくれませんので記載事項の不備にはご注意ください。

秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、遺言内容を秘密にしたまま公証人に遺言の存在を証明してもらう遺言書のことです。

公証人は遺言書の内容まで確認するわけではないため、自筆証書遺言と同様に必要事項が記載されていないことにより、遺言書が法的に認められずに無効となる危険性があります。

公正証書遺言

公正証書遺言とは、公証人が遺言者の意向をもとに遺言書を作成し、公正証書として保管される、最も安全で確実性の高い遺言書です。

法的な書類として取り扱われる公正証書遺言であれば、不動産の名義変更や預貯金の払戻しなどの相続手続きが他の遺言書と比べて格段にスムーズに進めることができます。

将来のトラブルを避け、自身の意志を確実に実現したいと考える方にとって最もおすすめできる遺言書の方式になります。

遺留分に留意する

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人が最低限保証される遺産の取得分のことです。

例えば遺言書により、遺産のすべては特定の相続人1人だけに渡すと書かれていた場合、他の相続人は最低限保証されている遺産の取り分である遺留分を侵害されたとして「遺留分侵害請求」を行うことができます。

遺言内容が有効であったとしても、遺留分侵害請求を拒むことはできませんので、遺留分を考慮して遺言書を作成する必要があります。

まとめ

ここまで、遺言書がない場合に起こり得るトラブルや遺言書作成時の注意点について解説しました。

遺される家族がスムーズに相続手続きを行えるように、かつ、相続をめぐった争いが起こらないように対策をしておくことはとても大切なことです。

しかし、せっかく作成した遺言書に不備などがあり、無効になってしまっては元も子もありません。

ご自身だけで完結せず、ぜひ専門家にご相談いただくことをおすすめします。

また、遺言書はいつでも何度でも書き直すことができます。

少なくとも、5年〜10年に一度、あるいはご自身の環境に大きな変化があったタイミングで、内容を見直してみると良いでしょう。

当センターでは、遺言書の書き方のレクチャーや、作成した遺言書が有効であるかの確認、遺言内容のご提案など、遺言書に関する様々なサポートを行っております。

ご相談者様一人ひとりに寄り添ったサポートを行わせていただきますので、遺言書についてのお悩みがある方はぜひ当センターへお問い合わせください。初回は無料でご相談いただけます。

 

 

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当コラムは記事作成時の法令等に基づいています。 税務関連記事内では、一般的事例としての取り扱いを記載しております。例外や特例を含めすべての事例について詳細に記したものではありません。 最終的な税務判断においては、税理士または税務署へご相談ください。 また、当コラムに掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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