相続基礎知識

小規模宅地の特例について

この記事の監修

伊藤 桜子先生

伊藤会計事務所

伊藤 桜子
九州北部税理士会 福岡支部 登録番号 第109896号
福岡県行政書士会 福岡中央支部 会員番号 13020号)

1990年 神戸大学法学部卒業。2008年 福岡市中央区薬院にて伊藤会計事務所開業。
福岡を中心に、相続税申告・生前対策相談・事業承継など累計700件以上を手掛けてきた。
相続対策や相続税法改正をテーマとしたセミナーにも多数登壇。

小規模宅地等の特例とは、相続や遺贈によって取得した宅地等のうち、一定の要件を満たしていれば、その宅地等の評価額を最大80%減額することができる特例です。

この特例を適用することにより、相続税額を大幅に軽減させることができます。

しかし、節税効果が大きい分、適用条件が細かく設定されているため、適用可否の見極めが難しいところでもあります。

ここでは、小規模宅地等の特例について、適用要件や計算方法などを詳しく解説しています。

1.対象となる宅地等の種類と要件

小規模宅地等の特例の対象となる宅地等は、特定事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等、特定居住用宅地等、貸付事業用宅地等の4つに分けられます。

(1)特定事業用宅地等

特定事業用宅地等とは、亡くなった人(被相続人)やその生計一親族が個人事業用に使用していた宅地等をいいます。

≪要件≫

区分 要件
被相続人の事業用 事業承継要件 被相続人の事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、営んでいること
保有継続要件 その宅地等を相続税の申告期限まで保有していること
生計一親族の事業用 事業承継要件 相続の直前から申告期限まで、その宅地等で事業を営んでいること
保有継続要件 その宅地等を相続税の申告期限まで保有していること

※区分ごとの要件(事業承継要件・保有継続要件)をどちらも満たす必要があります。

(2)特定同族会社事業用宅地等

特定同族会社事業用宅地等とは、亡くなった人(被相続人)またはその親族の会社(同族会社)の事業用に使用していた宅地等をいいます。

≪要件≫

区分 要件
一定の同族会社の事業用 法人役員要件 相続税の申告期限において、その法人の役員であること
保有継続要件 その宅地等を相続税の申告期限まで保有していること

(3)特定居住用宅地等

特定居住用宅地等とは、亡くなった人(被相続人)等の自宅用に使用していた宅地等をいいます。

≪要件≫

区分 取得者 取得者ごとの要件
被相続人の自宅用
(亡くなる直前に老人ホーム等に入所していた場合でも要介護認定を受けていた等の要件を満たす場合には適用可能)
配偶者 要件なし(無条件に適用可能)
同居親族 相続開始直前から相続税の申告期限まで引き続き居住する
かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで保有していること
同居以外親族(家なき子) 次の①~⑥の要件をすべて満たすこと
①取得者が日本国籍を有していること
②被相続人に配偶者がいないこと(死別含む)
③被相続人が住んでいた建物に同居していた他の相続人がいないこと
④取得者が相続開始前3年以内に取得者、取得者の配偶者、取得者の三親等内の親族等が所有する持ち家に居住していないこと
⑤取得者が現在居住している家屋を所有していたことがないこと
⑥その宅地等を相続税の申告期限まで保有していること
生計一親族の自宅用 配偶者 要件なし(無条件に適用可能)
生計一親族 相続開始前から相続税の申告期限まで引き続き居住する
かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで保有していること

生計一親族とは、亡くなった人(被相続人)と同じ財布で生活をしていた親族をいいます。

生計一であるかどうかの判定基準は「同居」しているか「別居」しているかで取り扱いが変わります。

同居の場合:原則は生計一と認められますが、二世帯住宅のように明らかにそれぞれが独立した生活を営んでいるとみなされる場合は生計一とは認められません。

別居の場合:原則としては生計別となりますが、被相続人からの仕送りなどで生活している別居の子(学生など)や被相続人が単身赴任で家族に生活費を送金している場合などは生計一に該当します。

(4)貸付事業用宅地等

貸付事業用宅地等とは、亡くなった人が不動産貸付用として使用していた宅地等をいいます。

≪要件≫

区分 要件
被相続人の貸付事業用 事業承継要件 貸付事業を相続税の申告期限まで引き継ぐこと
保有継続要件 その宅地等を相続税の申告期限まで保有していること
生計一親族の貸付事業用 事業承継要件 貸付事業を相続税の申告期限まで行うこと
保有継続要件 その宅地等を相続税の申告期限まで保有していること

※貸付事業を相続開始前3年以上行っている必要があります。

2.減額される面積と割合

小規模宅地等の特例は、該当する宅地等のすべての面積に適用できるわけではありません。宅地等の種類によって限度面積と減額割合が設定されています。

≪限度面積と減額割合≫

種類 限度面積 減額割合
①特定事業用宅地等 400㎡ 80%
②特定同族会社事業用宅地等 400㎡ 80%
③特定居住用宅地等 330㎡ 80%
④貸付事業用宅地等 200㎡ 50%

宅地等の種類が2種類以上ある場合には、すべての種類に適用できるわけではありません。該当する宅地の種類によって、限度面積を判定し計算する必要があります。

≪貸付事業用がない場合≫

 

種類 限度面積計算
①特定事業用宅地等 ①+② = 400㎡まで 合計730㎡まで
※完全併用可能
②特定同族会社事業用宅地等
③特定居住用宅地等 330㎡まで

≪貸付事業用がある場合≫

種類 限度面積計算
①特定事業用宅地等 (①+②) × 200/400 + ③ × 200/330 + ④ ≦ 200㎡まで
②特定同族会社事業用宅地等
③特定居住用宅地等
④貸付事業用宅地等

※貸付事業用宅地等がある場合は完全併用ができず、上記の式により限度面積を求める必要があります。

3.小規模宅地等の特例の計算例

小規模宅地等の特例の計算例をいくつかご紹介します。

例① 居住用宅地(評価額6,000万円 面積400㎡)

限度面積 宅地面積が400㎡ありますが、居住用宅地の限度面積が330㎡であるため、適用面積は330㎡となります。
特例適用額 6,000万円×330㎡/400㎡×80%=3,960万円

【3,960万円の評価減】

例② 居住用宅地(評価額5,000万円 面積250㎡)と 貸付事業用宅地(評価額9,000万円 面積300㎡)

(1)まずは各宅地の1㎡あたりの単価を算出し、限度面積と減額割合を乗じた金額で有利判定を行います。

居住用宅地等 5,000万円/250㎡=20万円
20万円×330㎡×80%=5,280万円
貸付事業用宅地等 9,000万円/300㎡=30万円
30万円×200㎡×50%=3,000万円

上記の場合、居住用宅地に対して小規模宅地の特例を適用した方が有利となります。

(2)さらに貸付事業用宅地等がある場合の限度面積計算により、併用できる限度額の残りの面積を算出します。

限度面積 200㎡-(250㎡×200㎡/330㎡)=48.48㎡

(3)特例適用額を計算します。

居住用宅地等 5,000万円×250㎡/250㎡×80%=4,000万円
貸付事業用宅地等 9,000万円×48.48㎡/300㎡×50%=727.2万円

➡【計 4,727.2万円の評価減】

ここまで特例適用額の計算方法や有利判定についてご紹介しました。

小規模宅地等の特例だけでみると一番有利な選択ができていたとしても、他の特例(配偶者の税額軽減等)との兼ね合いによっては、別の選択をした方が有利となる場合もあります。

様々な観点から有利判定をおこなう必要がありますので、特例の適用を検討されている場合には、相続税に強い税理士にご相談されることをおすすめします。

4.小規模宅地等の特例を受けるための必要書類

小規模宅地等の特例を受けるためには、原則として「遺言書がある」または「申告期限までに遺産分割が完了している」こと、かつ相続税の申告期限内に申告書を提出することが必要です。

なお、申告期限までに遺産分割が完了しなかった場合は、相続税の申告期限内に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出し、期限後に更正の請求をおこなうことで特例の適用を受けることができます。

≪必要書類≫

書類名 説明
被相続人の戸籍謄本 法定相続情報一覧図にて代用可
戸籍関係書類で収集するため、別途準備する必要はなし
被相続人全員の戸籍謄本
遺言書または遺産分割協議書
相続人全員の印鑑証明書 遺産分割協議を行った場合に必要
申告期限後3年以内の分割見込書 申告期限内に遺産分割協議が完了しない場合に必要
賃貸契約書 家なき子に該当する場合に相続人の自宅の賃貸契約書が必要
所得税の確定申告書 被相続人が貸付事業を行っていた場合に必要(生前3年以上)

5.まとめ

ここまで解説した通り、小規模宅地等の特例には相続税額を大きく軽減することができるという大きなメリットがありますが、適用要件の判定や計算が複雑になるなど注意する点も多くなります。

また、小規模宅地等の特例により納税額が0円になったとしても、税務署への申告は必要である点にも注意が必要です。

相続税の申告をミスなく期限内に行うためにも、相続財産の中に不動産がある場合には相続に強い税理士に依頼されることをおすすめします。

当事務所では、相続の無料相談をおこなっております。小規模宅地等の特例についての疑問がある方はもちろん、相続に関するお悩みがある場合には、ぜひ当事務所の無料相談をご利用ください。

 


当コラムは記事作成時の法令等に基づいています。 税務関連記事内では、一般的事例としての取り扱いを記載しております。例外や特例を含めすべての事例について詳細に記したものではありません。 最終的な税務判断においては、税理士または税務署へご相談ください。 また、当コラムに掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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