相続基礎知識

相続税の申告漏れに税務署は気が付くのか?無申告であった場合のペナルティは?

この記事の監修

伊藤 桜子先生

伊藤会計事務所

伊藤 桜子
九州北部税理士会 福岡支部 登録番号 第109896号
福岡県行政書士会 福岡中央支部 会員番号 13020号)

1990年 神戸大学法学部卒業。2008年 福岡市中央区薬院にて伊藤会計事務所開業。
福岡を中心に、相続税申告・生前対策相談・事業承継など累計700件以上を手掛けてきた。
相続対策や相続税法改正をテーマとしたセミナーにも多数登壇。

相続は一生のうちに何度も経験することではありません。

いざ相続が発生したときに相続税申告が必要とは思っておらず「気が付いたら申告期限が過ぎていた・・・」なんてことも起こり得ます。

もし相続税が無申告である場合、様々なペナルティが発生します。

今回は相続税申告を忘れていた場合はどうなるのか?無申告である場合のペナルティなどについて解説していきます。

1.相続税申告が必要な場合とは?

相続税の申告は「相続財産の総額」が「基礎控除額」より多い場合に必要となります。

(申告が必要であるかどうかの判断の流れについては〈相続税申告が不要な場合とは?〉にて解説しています)

(1)相続財産の総額

相続財産の総額とは、相続や遺贈によって取得した財産(プラスの財産)から葬式費用などの債務(マイナスの財産)を差し引いた金額のことをいいます。

「プラスの財産-マイナスの財産=相続財産の総額」

(2)相続税の基礎控除額

相続税の基礎控除とは 「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」です。

例えば、法定相続人の数が3人であれば

「3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円」

が基礎控除となります。

(3)相続財産の総額と相続税の基礎控除額を比較

相続財産の総額が相続税の基礎控除額を上回る場合に、相続税の申告が必要となります。

2.相続税がかからないのに申告が必要なケース

相続税には控除や特例の適用により、相続税額を減額することができる制度があります。

この控除や特例を適用した結果、相続税額が0円となった場合でも、税務署へ相続税申告書を提出する必要があるケースがあります。

申告義務のある主な特例は以下のとおりです。

(1)配偶者の税額軽減

配偶者の税額軽減とは、被相続人の配偶者が取得した財産額が、次の金額のどちらか多い金額までは相続税はかからないという制度です。

①1億6,000万円 まで
②配偶者の法定相続分相当額 まで

(2)小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例とは、相続人が取得する土地のうち、一定の要件を満たしていれば相続税評価額が最大80%減額されるという制度です。

(詳しくは〈小規模宅地等の特例について〉にて解説しています)

(3)特定計画山林の特例
(4)農地納税猶予の特例  など

なお、各特例は相続税の申告期限までに税務署へ相続税申告書を提出しなければ、適用することができません。

もし、相続税の控除や特例についてご不明な点がある場合には、相続に強い税理士へご相談することをおすすめします。

3.無申告に税務署は気が付くのか?気付かれるきっかけとは?

相続税申告をしなくても税務署に気付かれることはないだろう・・・という考えは大間違いです。

どのようにして相続税の申告漏れが税務署に気付かれるのか、主なきっかけは以下のとおりです。

(1)市区町村へ死亡届を提出する

相続が発生すると、死亡届を市区町村へ提出することになります。

市区町村では、死亡届が受理された日の翌月末までに死亡の情報を税務署へ通知することになっています。

つまり相続発生は確実に税務署で把握されることになります。

(2)税務署独自のシステム「国税総合管理システム(KSK)」

税務署では「国税総合管理システム(KSK)」という独自の情報網により被相続人の生前の収支状況や不動産・株の所有状況など、財産に関する情報を把握しています。

市区町村より死亡の通知がされると、被相続人の状況だけでなく、相続人の状況まで確認されるため、死亡保険金や死亡退職金などの入金状況なども把握されています。

さらに、税務署には相続人の同意なくとも、所有財産の詳細について強制調査を行う職務上の権限を有しているため、生前の預金の引き出しなども調べられることになります。

(3)不動産の名義変更(相続登記)を行ったとき

ご自宅などの不動産を相続した人は、法務局にて名義の変更手続き(相続登記)を行います。

不動産の登記簿謄本には、取得事由を記載する必要があるため「相続により取得」した旨が記載されます。

また、税務署は法務局とも連携しているため、相続により不動産を取得したことが明確に税務署へ通知されます。

※令和6年4月1日より相続登記が義務化されています。詳しくは法務省ホームページをご確認ください。

参考URL:【法務省HP】相続登記の義務化

(4)死亡保険金を受け取った

保険会社等から保険金が支払われた場合、保険会社から受取人へ支払通知書が送られてきます。

保険会社等は、受取人へ送付したものと同様の支払通知書を税務署にも提出することになっているため、税務署は保険の契約内容と保険金額を把握することができます。

(5)有価証券を相続した

株などの有価証券を保有し、売買取引がある場合には、毎年証券会社から取引報告書が作成され、株主へ送付されます。

また、株式の銘柄によっては配当金を受け取ることになり、配当を支払った会社は、支払調書を作成し株主へ交付します。

この取引報告書・支払調書ともに税務署へ提出されますので、財産の保有者が相続により変更になったことが発覚し、相続税申告の有無を疑われる要因となります。

(6)高額な金額が送金または引き出された

金融機関は、預金者の取引履歴を10年間保存しています。

前述でも記述している通り、税務署は相続人の同意なく、被相続人の所有財産を調査することができるため、金融機関で保存している取引記録も遡って調査することが可能です。

相続発生時には預金口座の残高が少額であったとしても、生前に多額の送金や引き出しがある場合、使い道を明確に説明できないと生前贈与や相続財産であると認定され、相続税の無申告が発覚することになります。

上記のような理由による税務署の高い調査力によって、相続税の無申告は必ず気付かれてしまうといっても過言ではありません。

4.無申告である場合のペナルティ

相続税の無申告が税務署へ気付かれた場合、本来の相続税にプラスして加算税や延滞税が課されたり、相続税の各種特例を使うことができなくなるなどのペナルティが発生します。

また、加算税や延滞税にはいくつか種類があります。

(1)延滞税

延滞税とは、法定納税期限(相続税の申告期限)の翌日から完納する日までの日数に対して課税される利息のようなものです。

延滞税率には2種類あり、その税率は毎年変動するため、計算することは困難です。

参考URL:【国税庁HP】延滞税について

(2)過少申告加算税

過少申告加算税とは、申告期限内に提出した申告書の内容が本来申告すべき内容より過少であったり、申告漏れ財産があった場合に課されるペナルティです。

過少申告加算税は、修正申告を提出した時期によって税率が異なります。

修正申告を提出するタイミング
税務調査通知前 税務調査通知後
税務調査実施前 税務調査実施後
50万円以下
の部分
50万円超
の部分
50万円以下
の部分
50万円超
の部分
対象外 5% 10% 10% 15%

(3)重加算税

重加算税とは、相続財産を偽装したり隠ぺいするなどの脱税行為があったと認定された場合に課税される一番重いペナルティです。

重加算税は、追加税額に対して35%~40%という高い税率が課されます。

相続税申告書の提出の有無
申告期限までに申告書を提出している 申告期限までに申告書を提出していない
追加税額×35% 追加税額×40%

(4)無申告加算税

無申告加算税とは相続税申告を正当な理由なく行っていなかった場合に課されるペナルティです。

無申告加算税は、相続税額に対して5%~30%の税率で課されます。

相続税額 相続税申告書を提出するタイミング
税務調査通知前 税務調査通知後
税務調査実施前 税務調査実施後
相続税額50万円以下部分 相続税額×5% 相続税額×10% 相続税額×15%
相続税額50万円超部分 相続税額×15% 相続税額×20%
相続税額300万円超部分※ 相続税額×25% 相続税額×30%

※相続税額300万円を超える部分の税率は、相続税申告期限が令和6年1月1日以降の場合に適用されます。

5.相続税申告の時効

相続税申告には時効(除斥期間)があります。

相続税の時効は「法定申告期限の翌日から原則5年」と定められています。

ただし時効が5年となるのは「相続の発生を知らなかった場合や相続税の申告対象となる財産の存在を把握していなかった」などのケースです。

悪意がある(偽りその他不正の行為)と認められる場合の時効は「7年」に延長されます。

時効があるからといって、時効成立まで申告をしない、ということはとても危険です。

前述でも説明した通り、税務署では相続税が課税されるであろう事実をほとんど把握しているため、高確率で無申告を指摘されます。

また、税務署に指摘されてからの相続税申告となると、ペナルティとして本来の相続税額よりも多くの税金が発生することになり、税負担が大きくなります。

6.まとめ

ここまで解説した通り、税務署では様々な情報網を使って被相続人の財産状況などを把握しています。

そのため、相続税の無申告は必ず発覚すると考えて良いでしょう。

もし無申告が発覚した場合、延滞税や加算税が追加されるほか、相続税額を減額することができる各種特例が使えなくなります。

特例が使えないとなると、相続税の計算上、本来の相続税額よりも多額の税金を支払うことにもなりかねません。

そうならないためにも、相続が発生した際には、相続税申告が必要であるかを必ず確認し、申告・納税手続きは法定期限内に完了させることが重要です。

もし相続税申告を忘れていたり、申告の必要があることを知らなかったなどの理由により申告手続きが済んでいない場合には、速やかに期限後申告を行いましょう。

相続が発生した際には、ぜひ当事務所の無料相談をご活用ください。

相続税申告が必要であるかの判定も無料相談の中で確認させていただきます。

当事務所では相続税の期限後申告にも対応しております。

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当コラムは記事作成時の法令等に基づいています。 税務関連記事内では、一般的事例としての取り扱いを記載しております。例外や特例を含めすべての事例について詳細に記したものではありません。 最終的な税務判断においては、税理士または税務署へご相談ください。 また、当コラムに掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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