生前対策

生前贈与を行うときの注意点について解説

この記事の監修

伊藤 桜子先生

伊藤会計事務所

伊藤 桜子
九州北部税理士会 福岡支部 登録番号 第109896号
福岡県行政書士会 福岡中央支部 会員番号 13020号)

1990年 神戸大学法学部卒業。2008年 福岡市中央区薬院にて伊藤会計事務所開業。
福岡を中心に、相続税申告・生前対策相談・事業承継など累計700件以上を手掛けてきた。
相続対策や相続税法改正をテーマとしたセミナーにも多数登壇。

「相続税対策には生前贈与がいい?」「どのように手続きをしたらいいのかわからない」「年間110万円の非課税枠を使えば安心なのでは?」そうお考えの方も多いのではないでしょうか。

確かに生前贈与は計画的に行えば大きな相続税対策となり得ますが、安易な判断で実行すると、かえって思わぬ税負担が生じたり、家族間のトラブルを招いたりするリスクも潜んでいます。

今回のコラムでは生前贈与を行う上で、知っておくべき注意点とその解決策について解説していきます。

なお、生前贈与の基本については《生前贈与とは?贈与税の基本と特例について解説》にて詳しく解説しています。

注意点① 名義預金とみなされてしまうケース

生前贈与で最も多い失敗の一つが「名義預金」とみなされてしまうケースです。

名義預金とは、親が子や孫名義の口座を開設し、贈与として金銭を入金しているものの、その口座の管理を親が行っており、子や孫がその口座の存在や自由な利用について認識していない場合などに発生します。

贈与が成立するためには、「あげる意思」と「もらう意思」の合致、つまり贈与契約が明確に存在していることが重視されます。

そのため、受贈者が口座の存在を知らなかったり、口座の管理を贈与者が行っているケースでは贈与が成立したとは認められない可能性があります。

そうすると、口座名義が受贈者であったとしても、贈与者の死亡時に「名義財産」として相続税の課税対象とされてしまいます。

解決策① 贈与契約書を作成する

「あげます」「もらいます」の意思表示を明確にするため、贈与を行うたびに贈与契約書を作成すると良いでしょう。

贈与契約書の書き方に決まりはありませんが、次の項目については記載しましょう。

  • 契約日、贈与履行日
  • 贈与者の住所、氏名、押印
  • 受贈者の住所、氏名、押印
  • 贈与財産の内容(現金●●●万円 など)

解決策② 受贈者自身が口座の管理・使用をする

贈与された預金は、受贈者自身が通帳や印鑑を管理し、自由に入出金ができる状態にしておきましょう。

自分で管理することで、贈与を認識していることを証明することができます。

解決策③ 贈与の方法を銀行振込にして記録を残す

贈与者の口座から受贈者名義の口座へ振込で入金をすることにより、通帳に送金及び入金の記録が残ります。

こうすることで、実際に金銭の贈与があったことを客観的に証明することができます。

解決策④ 贈与税申告を行う

1月1日~12月31日までに贈与された財産の総額が110万円を超える場合には、贈与税の申告を行いましょう。

贈与の事実を税務署へ申告するため、決定的な証拠といえるでしょう。

注意点② 定期贈与とみなされてしまうケース

定期贈与とは、毎年同じ時期に同額の金銭を贈与しているときに「当初から決まっている金額を複数年にわたって贈与することを約束した定期贈与である」とみなされてしまうことです。

例えば、10年間にわたって毎年110万円ずつ贈与していた場合、1年目に1,100万円を一括で贈与したとみなされ、1,100万円に対して贈与税が課税されてしまう可能性があります。

この例に沿って説明すると「毎年110万円ずつの贈与契約が10年分」の場合、1年あたりの贈与額が基礎控除額内に収まっているので、贈与税は発生しません。

それに対して「1,100万円の定期贈与契約が1回分」と認識された場合、基礎控除額を超過した990万円部分に対して贈与税が発生してしまいます。

解決策 毎年贈与契約書を作成する

毎年贈与を行うたびに贈与契約書を作成しましょう。

また、契約書の内容にも注意が必要で、「毎年●●●円を贈与する」や「〇年分の贈与」といった表現は使わないようにしましょう。

注意点③ 暦年課税の生前贈与加算が必要となる

暦年課税での贈与を行っていた贈与者に相続が発生したときには、相続開始前の一定期間内に行われた贈与について、贈与財産の金額を相続財産に持ち戻して相続税の計算を行う必要があり、このことを生前贈与加算といいます。

一定期間はこれまでは3年間でしたが、令和6年1月1日の贈与から段階的に年数が延長され、最終的には7年以内の贈与を加算する必要があります。

そのため、贈与者が高齢の場合の暦年課税での生前贈与は、有効な相続税対策にはなりにくいケースがあります。

※贈与の改正については《令和6年分の贈与から贈与税制度が変わる?変更点や改正のポイントについて解説》をご参照ください。

解決策① できるだけ早く贈与を開始する

相続税対策としての生前贈与は、早ければ早いほど効果が高まります。

相続開始までの期間が長いほど相続開始前7年の加算に影響されない贈与を積み重ねることができ、本人の相続財産を減らすことができます。

解決策② 相続時精算課税制度の利用を検討する

贈与税制度の改正により、相続時精算課税制度がとても使いやすくなっています。

これまで相続時精算課税には基礎控除はありませんでしたが、令和6年1月1日より110万円の基礎控除が設定されました。

さらに相続時精算課税での基礎控除内の贈与は、暦年課税とは違い「贈与税もかからず、相続財産への加算も不要」となっています。

生前贈与加算が不要な点以外にも相続時精算課税制度には様々なメリットがあります。

詳しくは《相続時精算課税制度とはどんな制度?》にて解説していますのでぜひご参照ください。

注意点④ 相続人同士でトラブルとなってしまうケース

被相続人から多額な生前贈与を受けていた相続人がいる場合、遺産の分割割合や遺留分の請求でトラブルになることがあります。

特定の相続人に偏った生前贈与をしていると、贈与を受けていない他の相続人との間で不公平が生じます。

そういったときに、他の相続人は生前の贈与分を考慮して財産を分けるために「特別受益の持ち戻し」や「遺留分侵害額請求」を求められる可能性があります。

特別受益の持ち戻しとは

特別受益とは、被相続人から生前贈与や遺贈などで特別に受け取った利益のことです。

一部の相続人だけが被相続人から生前贈与などにより多くの財産を得ている場合には、他の相続人との公平性を保つために、特別受益の対象となった財産を相続財産へ加算したうえで遺産分割協議を行うと定められています。

これを「特別受益の持ち戻し」といいます。

遺留分侵害額請求とは

遺留分とは、兄弟姉妹や甥姪以外の法定相続人に保証されている最低限の遺産取得割合のことです。

一部の相続人だけが多額の生前贈与を受けていた場合や遺言書により特定の相続人だけが財産を相続する場合など、他の相続人の遺留分を侵害している場合に、その遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求される可能性があります。

解決策 専門家へ相談する

特別受益や遺留分については法的な注意点が多くあるため、対策を講じる際には慎重な判断が必要になります。

ご自身での判断は難しい場合もあるため、贈与計画を行うときには相続に強い専門家へ相談することを推奨します。

まとめ

ここまで生前贈与を行うときの注意点について解説しました。

贈与を行うときには税金のことだけではなく、ご自身の資産状況や家族構成、贈与の目的などを総合的に判断することが重要です。

必要に応じて相続の専門家へ相談しながら最適な生前贈与計画を立てることが成功のカギとなります。

生前贈与に関するご不安や疑問がある方はぜひ当センターの無料相談をご利用ください。

相続の専門家がお客様のお悩みに寄り添い、皆様に最適な生前対策をご提案させていただきます。

 

 

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当コラムは記事作成時の法令等に基づいています。 税務関連記事内では、一般的事例としての取り扱いを記載しております。例外や特例を含めすべての事例について詳細に記したものではありません。 最終的な税務判断においては、税理士または税務署へご相談ください。 また、当コラムに掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

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